《ゼニヤのキホン》 2022.9月号より

正しいコーヒーの淹れ方について

 コーヒーの淹れ方は実に様々で、大きく分けてドリップ式(ペーパーフィルター、ネル(布)フィルター、金属フィルター)、サイフォン式、プレス式(フレンチタイプ、アメリカンタイプ等)があります。他にも機械式抽出やパーコレーター式、水出し式など分類の仕方にもよりますが多様です。錢屋カフヱーは本質的には昭和の時代の町の喫茶店の良さを今に再現したいと思っていますので、お馴染みのペーパーフィルターを使ったハンドドリップ式とサイフォン式(金曜日だけ)を採用してきました。コーヒーオイルの風味をお好みの方にはプレス式のご用意もございます。開業時からペーパーフィルターを使ってきましたが、改めてネルドリップを見直すことにしました。抽出後のコーヒーかすはペーパーフィルターごと廃棄していたのですが、ネル(布フィルター)にすることで、廃棄せずに肥料として再利用し屋上の菜園で野菜や花、ハーブ等を育ててみることにしました。
 抽出方法としては紙が布に変わっただけですからプレス式のものほど大きな違いはありませんが、豆に含まれる油分(コーヒーオイル)が残り豆由来の風味が感じられるのではないかと思います。
 コーヒーの味を決める要素は、豆の品質、焙煎具合、焙煎後の鮮度、分量、粉砕の度合い(粒度)、抽出する水の質、その温度、そして上記のような抽出方法などです。これらの組み合わせから正しい淹れ方という意味での正解は無いかも知れませんが「当店の味」を決めていくのです。もちろん、理屈だけでなく情感的な要素も大切にします。

余談ですが…山で飲むコーヒーについて

 私は登山が趣味で毎夏には日本アルプスに登ります。多少は重くなってもコーヒーを楽しむ装備は担いで登ります。3000m級の山々の稜線を歩きながらここぞという(だいたいは富士山が綺麗に見える)場所でコーヒーブレイクを楽しみます。山のコーヒーが美味しいのには非日常的要因だけでなく、合理的な理由もあります。高所で気圧が下がると(水の分子が気化するのを抑える力が弱まるので)沸点も下がり標高2,800~3,000mあたりでは約90℃で沸騰することになります。錢屋カフヱーで提供するコーヒーの抽出温度は90℃です。一般に85~90℃が苦味や甘み、酸味のバランスが最適とされています。お店では温度計で管理していますが、山の上では沸騰した温度が抽出最適温度だという事です!
 絶景と冷たく澄んだ空気、そして山で汲んだ湧き水、偶然とは言え最適温度で抽出されるコーヒー、これだけの条件が揃うのですから美味しいわけです。(文・正木)