《ゼニヤのキホン》 2022.3月号より

徒歩20分圏内での生活

コロナ禍の制限で生活の見直しを余儀なくされました。2年が経った今は価値観の変化と共にむしろ積極的に新しい生活を受け入れて楽しむ段階だと思います。豪州のメルボルンや米国のポートランド等、海外の住みやすいとされている街は元から徒歩20分圏内での生活が成り立つことを意識した政策で街づくりがなされているようです。図らずも、この上本町は緑地こそ大阪城公園くらいまで行かないとありませんが、それ以外の生活に必要なほとんどは揃っているのではないでしょうか。加えて文化的な環境は歴史的背景も含めて世界に誇れるものがあるとさえ思います。

楽しみ方を立体的に

1月号の裏表紙の特集「未来の上本町」で、寄稿くださった新歌舞伎座の松村社長が紹介されていた新春特別企画「前川清・藤山直美 恋の法善寺横丁」を観劇しました。昭和初期の法善寺横丁の割烹料理店が舞台の話しですが吉本新喜劇の役者が脇を固め、泣き笑いの人情恋物語となっていました。芝居がはねた後はそのまま余韻に浸りながら法善寺に行ってみました。近鉄タクシーで10分ほどの移動です。舞台のセットと同じ水掛不動さんの本物にお参りしてから横丁の料理屋さんに入ってみました。先客に常連さんがおられ「先代の味は……」と芝居と同じようなことを仰っていて、芝居の雰囲気を纏ったまま時空を超えて場を共にできた気がして、とても豊かな時間となりました。

少しの行動力を想像力で膨らませ

上本町周辺の生玉さんや高津さんは歌舞伎や文楽の舞台として多くの作品に登場します。上方落語にも上町のご隠居さんが出てくる噺があります。織田作之助作品はもちろん、谷崎潤一郎の『細雪』の四姉妹の暮らす蒔岡家本家も上本町です。読書や観劇を楽しみ、そこから少しの行動を想像力で膨らませ、その楽しみを立体化してみるには上本町はうってつけです。

広範囲の移動が制限されても、歴史を遡ってみるのは時間的な広がりですから感染リスクとは無縁の楽しみ方です。聖徳太子千四百年御聖忌となる今年は、四天王寺でも様々な催しが行われています。きたる4月22日にも精霊会という法要が催されます。聖徳太子の時代から人の営みがあったこの場所を生活圏として重ねて想像してみると特別な感慨があります。

この町で暮らしておられる皆様に、コロナの制限下にあっても立体的な楽しみ方をして頂けるような情報の発信と、関連付けたイベントの企画をして参ります。いつか来るコロナの終息を待たずとも、春はやって来ます。少しの行動を想像力で膨らませ、豊かに過ごして頂けたらと思います。(文・正木)