《ゼニヤのキホン》 2022.10月号より

お客さまとの会話で気づくこと 
錢屋カフヱーや錢屋ギャラリーでお客さまとお話をする機会があります。内装の趣味や全体の雰囲気を気に入って下さりお褒めいただくこともあります。嬉しく思いながら、お気に入りのポイントを伺うと実に様々。その表現も人それぞれで、感じ方の違いを興味深く思います。その中で「ラグジュアリーな空間」と言って下さった方がおられてラグジュアリーについて考えました。
商品やサービスの形容でよく見かけますが、正直なところ意味がよくわからず使われ方に違和感がありました。辞書的な意味では「豪華」「贅沢」と訳されるようですが、おそらくその方はそう言った意味で仰ったわけではないと感じましたし、錢屋カフヱーやギャラリーもそれを目指したものではありません。好意的に評価して下さった言葉で何が違っていて、何が合致したのかと考えながらお話を続けました。

ラグジュアリーとは?
そのお客さまが仰るラグジュアリーは丁寧さや軽々しくはない雰囲気のことではないかと思いました。私が考えるラグジュアリーは時間をかけてしか成り立たない何か、背景をもつ奥行きの深さ、佇まいといった抽象的な特別感です。当店を例えにしながらそう語るのは気が引けますが、これはその時の会話の話ですからお許しください。
その会話のながれで錢屋マルシェの陳列を指さしながら「あのお酢も、メープルシロップも、ピーナッツバターも、野菜も、私の基準ではラグジュアリーです。だからこの場に相応しいと思います」と冗談めかしてですが本気でお話ししたところ、笑いながら同意して下さいました。
高性能や高品質、新しさはお金で買えますが、時間をかけて愛されたモノや思いのこもったモノがもつ独特の雰囲気には得がたい魅力があります。丁寧につくられたモノもそうでしょう。
錢屋本舗本館のエントランスの床は、よく見ると不思議な継ぎはぎがあります。60年ほどの歴史の中で何度か行われた改修の後ですが、時代ごとに職人さんが研ぎだしてくれたものです。高級でもなければ美しいというわけでもない継ぎはぎですが、なんとか前の年代に合わせようとした手の跡が見られます。私はこういったモノが持つ独特の雰囲気を愛おしく思い、これをラグジュアリーの基準にしたいと思います。そして、錢屋カフヱーやギャラリーでご紹介するものや、錢屋マルシェでご提供するものは、その意味で、相応しいモノを揃えたいと思います。(文・正木)