《ゼニヤのキホン》 2021.11月号より

プリンにだけ「錢屋」がつくのはなぜ?

 錢屋カフヱーのメニューは時々リニューアルをしますが、定番となっているものがほとんどです。本当は、もっと色々と出したいのですが、とてもありがたいことにどれもまんべんなく人気があるのです。数ばかりを増やす訳にもいかず定番となって残っています。そのなかでも「錢屋…」と冠がつくのは「錢屋プリン」だけです。これはスタッフが命名したものですが、もし「そのココロは?」と聞いたら「社長の思い入れが強そうだったから」と答えるのではないかと思います。そして、それは間違いではありません。

50歳のチャレンジ店舗

 錢屋カフヱーのオープン前、計画ではこの場所は「チャレンジ店舗」でした。今となっては石ヶ辻町のこの辺りも飲食店が増えてきましたが5年前は「新中国料理 黄龍」や「洋食 川ぎし」「幽玄」もありません。この界隈に美味しい飲食店を誘致したいと考え、同時にそういったお店が増えたら良いなと想い描き、若い料理人に格安で貸しお客様の支持を得られたら、この界隈で開業してもらう前提のステップアップのための場を提供しようと計画しました。それを「チャレンジ店舗」として、当初は月額6万円で募集しました。今となっては格安で驚かれるかもしれませんが、起業支援のつもりでもありました。それでもあの当時は誰もチャレンジしませんでした。そのままにする訳にもいかず、そこで当時50歳だった飲食店未経験の私がチャレンジすることにしたのです。

で、なぜプリンなのか?

 この町の生活者でもある自分自身が「この町にあったら良いな」と思うものを自問し「50代の男性が堂々と入れ、アナログ盤レコードを聴きながら薫り高いコーヒーとプリンを照れずに注文できる店」という答えに辿り着きました。当時はちょうど生クリームの入ったクリーミーな「ふわトロプリン」が流行っていましたが、心には昭和の時代の卵の香りのするしっかりプリンしかありませんでした。内装も木目や白を基調としたおしゃれなカフェでは、私のようなオジサンは浮いてしまいます。ですから、そこにもこだわりました。なんせ50歳からのチャレンジなのですから妥協はできません。進めるうちに予定外のコストもかかってしまいました。そんな…ちょっとほろ苦さもある、それらの想いが凝縮され「錢屋プリン」となりました。(文・正木)