《ゼニヤのキホン》 2021.4月号より

情感豊かな選択を

 衣食住のうち、着るものや食べるものには自然素材を求める方であっても、住は機能性重視になりがちで、そもそも選択肢も少ないようです。住まいから職人の手仕事の要素が減り、内外装ともに耐久性やメンテナンスのしやすさ、紫外線カットといった機能を謳う大手建材メーカーの製品が多くなったことは事実です。多機能家電もそうですが性能が優れていても、使う人の気持ちに寄り添っていないことも多く、近年の日本のものづくりの弱点だと憂います。

 錢屋カフヱー&ギャラリーのカーテンはベルギー製です。カフヱーの壁側のベンチシートの背もたれも実はソファ用ではなく同じ生地で作ってもらいました。光沢や発色といった情緒的要素を重視したからです。

 元来日本人は情緒的な豊かさを暮らしに取り入れてきたはずです。谷崎潤一郎は日本家屋の縁側の照り返しが、障子越しに入る光で室内の襖の雲母が映えるさまを陰翳礼讃で称えました。洋の東西で瞳の色が違うのですから同じ光は見ていないのでしょう。光とその反映である光沢、色彩は、気候風土や生活様式といった要素と複雑に絡んで情感に影響を与えます。シャンデリアやダウンライトの輝度の高い光に映える生地は毛足の長いベルベット地でドレスを作ってきた欧州製は種類も豊富で秀逸です。ギャラリーのレースカーテンのドレープは日本ではあまり使われていない形状ですがゆったりと揺れやすく、オーロラのひだのように光が和らぎます。

 錢屋本舗本館の4階に上がる階段の踊り場の壁紙は和柄の様ですがイギリス製です。巧みにプリントされたラメがシャンデリアの光に映えるのです。

 家にいる時間が長くなる状況で、ちょっとしたことを見直して、ちょっと以上の何かを得られるアイデアはたくさんあると思います。暮らしの中に機能で選ばない選択肢があっても良いと思います。