UEMACHI & LIFE 2021.2月号

平岡 弘章さん
清風中学校・高等学校
副校長

10年前と今とで、この町は何が良くなって何が悪くなったか。
そして10年後は?暮らす、働く、楽しむ、学ぶ、育てる、育つ、老いを迎える…。
この町を行き交うさまざまな人が、それぞれの思いで描く10年後の寄せ書きです。


アイデンティティ確立の重要性

これからの時代は自分の土台(アイデンティティ)のない人は世界に貢献できません。


10年前までなら良い大学を出て良い企業に就職できたから安泰。
でも、そんな時代は過ぎ去りました。
昨今のコロナ禍で学歴や肩書きといった表面的なものは評価されなくなり、一層実を重視した時代に変わりつつあります。

そこで、今こそ中学・高校での教育の真価が問われると確信します。
生徒たちの人としての土台や生き抜く力をしっかり育む必要があります。

そして、それは生きてきた文化的影響と不可分で、他の文化や異なる価値観を理解し尊重することが大切です。
しかしその前に、まず日本人として確たる見識と土台を持たなくてはなりません。

大人が次代に伝えなければならない事は何でしょうか。
今や世界は以前よりも近い存在であり、ダイバーシティ(多様性)の名の下に個性を尊重する時代になりました。

そこで尊重されるべき個性の有無が評価対象になります。
個人の主義主張が重視される西洋文化に日本も近づいているのかもしれません。

それは若い世代に特徴的に見られ、仮に近い将来に日本が西洋文化に同化するようなことあれば、瞬時に日本人は世界から取り残されるでしょう。
なぜなら日本で教育を受けた者はその独自性を前面に出し、その者ならではの視点や観点、考え、技術を提供することにより世界に貢献しなければならないからです。
そこにこそ日本人が必要とされる理由があります。

まずは自分とは何かを確立しなければなりません。
その「自分」を規定するものは環境や文化、習慣であり言語でもあります。
中でも言語はアイデンティティの主張には不可欠ですから、まず大切なのは日本語です。

グローバル教育の必須アイテムである英語は確かに有効ですが、あくまでも道具。
目標までの方法に過ぎずゴールと混同してはいけません。
英語を話せる事は有利ですが、だからと言って国際的に貢献できるとは限りません。
何よりも、自分の土台を持ち、貢献できる専門分野を持ち、その上でコミュニケーションのための英語力が求められます。

国際的に活躍するには、何よりアイデンティティの確立が大前提なのです。

地域の文化や歴史を書物の中ではなく、活動に起こし体感として伝承する。
これらの錢屋さんの試みも子供たちがアイデンティティを確立するのに非常に重要です。

この地でなくとも異国の空の下で祖国に思いを馳せる時、この町で、成長過程で出会った言葉や光景が理屈ではなく「私」という人物の根底にあることは、揺るぎないアイデンティティになるはずだからです。