《ゼニヤのキホン》 2023.3月号より

使っても減らない埋蔵資源

上町台地には埋蔵資源が眠っています。歴史や文化のことです。普通に生活していれば気付かないかもしれないそれは、知って活かさなければ埋もれたままです。

初代神武天皇が橿原神宮で即位される前に今の大阪城の辺りに生國魂神社を創建し、豊臣秀吉が現在の場所に遷座しました。聖徳太子は19歳で四天王寺を建立し、太子の側近であった秦河勝によって雅楽や申楽(能楽)の前身となる芸能が伝えられ、天王寺楽所はその伝統を今に至るまで継承しています。「ムシゴロシ」と語呂合わせで覚えた大化の改新は、645年の6月に飛鳥宮での蘇我入鹿の暗殺を発端としますが、政治改革そのものは同年12月に遷都された(前期)難波宮で行なわれました。「日本」という国号が定められ「天皇」という称号が正式なものとなった、まさにその舞台となったのです。

うえほんまち錢屋ホールのある錢屋本舗南館は7年前の新築の際に、文化財保護法で定められた試掘調査をしましたが土器の破片がでました。難波宮の朱雀大路に近く、細工谷遺跡なども発掘されていますから、市の調査員によると「奈良時代以前と思われる」「この辺りでは当たり前」という事でした。私達が生活するこの場所に古代から人の営みがあったことを実感しました。

むしろ使って残す埋蔵資源

上本町周辺は高層マンションが建てば売れる人気のエリアです。上町台地は上町断層があるので地震には備えねばなりませんが強固な岩盤で、その名の通り台地なので洪水の心配はなく、上本町周辺は商業施設、病院、学校も多く便利なことが要因となっているようです。新築マンションの販売用パンフレットには、錢屋カフヱーも周辺の施設としてご紹介いただく事も多いです。それはありがたいのですが、私としてはこの地の歴史や文化も是非紹介をして頂きたいと不動産ディベロッパーや営業の方々にお願いしています。歴史的背景や文化的土壌は簡単に得られるものではなく、その視点を持ってこの地の素晴らしさを知っていただけたなら、住まう方々や育つ子供らにとって誇りや愛着に繋がるのではないかと思います。

日本列島を御祭神とする生島大神、足島大神の二柱を祀る生國魂神社は、神話から始まるこの地の歴史を理解したならば天照皇大神の伊勢神宮とも並び称されるべき神社で、それを結ぶ鉄道の本社所在地でもあるこの町は、日本が神話から歴史へと切り替わった舞台とも言えます。国譲り神話にあるように、勝ち取ったのではなく譲り受けて成り立ったこの国の神話はユニークで、丁寧に紹介すれば世界に向けた観光資源としても活かすこともできるはずです。使っても減らないどころか使えば残る貴重な埋蔵資源を掘り起こし活かしましょう。(文・正木)