《ゼニヤのキホン》 2023.4月号より

ソソラソウ

 いきなり「ソソラソウ」と言われても何のことかだかわからないと思います。錢屋本舗南館の最上階の新しいスペースを「ソソラソウ」と名付けました。「それってどんな字?」と聞きたくなる方もいらっしゃるのではないでしょうか。これを民俗学者の柳田国男は「どんな字病」と名付けたそうです。「ソソラソウ」では意味や目的、用途などを求める感覚そのものを見直してみることを提案したいと思います。

 表意文字である漢字は情報伝達には効率的で、使い慣れた我々にとっては文字の組み合わせから言葉の意味を類推できて便利なのですが、元々は外来文化です。漢字以前に日本にはやまと言葉がありました。和語とも言います。「キラキラ」「ヒラヒラ」「サラサラ」等のオノマトペ(擬音語)もやまと言葉で現代日本語にも豊富ですが、これらの特徴は音から意味を類推することです。また、言霊信仰も日本古来の文化で、私たちの先祖は言葉に意味以上の何かを感じていたかも知れません。

 改めて「ソソラソウ」という語感からは何を連想されますか?モヤモヤ(↑これもオノマトペですね)したままでは申し訳ないので「竪穴式屋上生活空間 素空荘」と書けば合点がいかれるかもしれません。スッ(↑これも)とされたでしょうか。

原初的体験から豊かさを見直す

 豊かさの本質を見直し生活に取り入れる提案をしたいと思っています。

 設計者を探す段階で候補の方から「何のためのスペースか?」と何度も聞かれました。生活空間?ショールーム?飲食は提供する?宿泊は?販売もする?等。

「私は魅力的な空間にはそれに相応しい人が集まり、それらの人が用途を決める」と考えていますからそう伝えても、「やりたいことを100個挙げて欲しい」と言われたので、その方には依頼できませんでした。専門家と話す時にこういう経験は何度もしてきました。でも、この縄文時代の竪穴式住居の様な原初的空間を面白がる人が集まって下さったなら100種類以上の何かができると思います。

 設計者が用途を聞くのはそれをヒントにイメージを膨らませるだけでなく、用途に応じて適用される法律があり設備や構造面でクリアしないといけない問題があるからのようですが、そんなことから考えていると(用途分類も法律も既存の枠に他ならず)どこかにあるような空間しかできません。用途を決めないと設計ができないなんて不自由な話です。

 何かの役に立たないものは全て無駄なのでしょうか?人だって、役に立たないといけないと思い込んで自分の価値を見失い自信喪失するような事がありますが、もったいない話です。

 ソソラソウは左払いのカタチがリズミカルで美しく、ロゴも楽しそうなのでそうしました。sosoraSOと表記しても曲線の連続が有機的イメージに合いそうです。意味は後付けでも良いのです。ここで何をするかは、ここを面白がってくれる方々とこれから考えようと思います。なにかピンとくるものがあったならお声掛けください。(文・正木)

見出し写真 撮影:Yohei Sasakura