《ゼニヤのキホン》 2023.1月号より
さむくてあったかい
昨今の建物は密閉性が高く暖房効率が良いので全体が均一に温かいのですが、錢屋本舗本館はご存知の通り、古くてすきま風のはいる建物です。寒い時季にはお客様には申し訳ないと思いながらも、鉄扉をアルミサッシにすることやエレベーターの蛇腹式鉄格子を最新機種に変更するのには躊躇いがあります。換気が必要な冬も2回目となりましたし、そもそもギャラリーや奥の階段に繋がるエントランスに併設されたカフェでは暖房には限界があります。その代わりと言ってはなんですが、寒いけれども暖かさを感じて頂けるような工夫を精一杯したいと思います。
なればこその練炭火鉢とやかんの湯気となります。焼き芋や焼き栗もできそうですし、夜は特にホットカクテルを充実させようと思います。カフェのバータイムですから、本格的なバーには敵わない点もありますが、逆にアイリッシュコーヒー(暖めたアイリッシュウイスキーにホットコーヒーを注ぎホイップドクリームで冷めにくいように蓋をし、シナモンを加えたホットカクテル)を挽きたての自家焙煎豆の淹れたてで提供することは、本格的なバーでも簡単にはできないはずです。
欠点を魅力に
欠点を魅力に変えることができたなら、それはかけがえのない魅力となるでしょう。不完全さを愛でるセンスを磨きたいと思います。錢屋本舗本館を今の形に改修しようとした時に、最初に計画したのは物置になっていた4階でした。当初は、まだアイデアもなく賃貸にしようと考えて不動産屋さんに家賃を試算してもらうと思いのほか安く、理由を聞いたら「築50年以上のビルでエレベーターもない4階を借りる人はいない」と言われました。それがきっかけになって、人任せにせずに欠点を魅力に変える努力をしようと考えて計画したことが、今に至る原型となりました。当時は室外機置場でしかなかった屋上をテラスに変えガーデニングをし、それを眺めながら料理ができるキッチンを計画しました。4方向から採光がとれ、テラスに繋がりヴィンテージオーディオで音楽を楽しめるリビングと24人分のダイニングを備える錢屋サロンができ、そこで料理教室を始めたのが錢屋塾の始まりです。
ビルの屋上は、ほとんどが空調機の室外機置場になっています。メンテナンスを考えると、それが正解なのでしょうが、設計者も慣れてしまって疑問を持ちません。ここでも「経済効率」が優先されています。しかし、工夫し、日本中の屋上をガーデニングして解放したら、街の暮らしももっと豊かになると思います。
現在、錢屋本舗南館の屋上を工事しています。春頃にはご案内できるかと思います。