《ゼニヤのキホン》 2026.11月号より
中学生の理科で音楽を聴く
久しぶりにレコードを聴いていて、この仕組みは中学生の理科でだいたい説明できるのではないか、と思いました。理解できるという納得感も、私の場合は心地よさと関係している気がします。理科が苦手だった方も、しばらくお付き合いください。
レコード盤には音の振動が細かな溝として刻まれています。その溝を針がなぞると針が揺れ、その振動を電気に変え、増幅してスピーカーへ送る。するとスピーカーが空気を震わせ、再び音になる。つまり、「振動→電気→振動」の変換です。
中学生の頃、磁石とコイルを使って「フレミングの右手の法則、左手の法則」と習った記憶があります。後述するMC型カートリッジも同じ原理です。磁石とコイルが動き合うと電気が生まれる。いわゆるファラデーの電磁誘導で、発電機と同じ「右手」の世界です。
中学(夕陽丘中です!)の理科の試験で、右手と左手を使って電流の向きを考えていたら、試験監督の英語の先生に手信号で集団カンニングをしていると疑われ、試験が中断するという笑い話のような出来事もありました。
閑話休題。出口のスピーカーでは逆に、コイルに電気を流して振動板を動かします。こちらはモーターと同じ「左手」の世界。「右手」で振動を電気にし、「左手」で電気を振動に戻す。昔、何のために覚えるのだろうと思っていた右手と左手が、今になって音楽を聴くために働いているのです。

錢屋カフヱーのレコードプレーヤーは1980年代に登場したYAMAHAGT-2000。本体は約28キロもあります。レコードは溝に刻まれたごく小さな振動を拾うので、余計な振動は少ないほうがいい。そこで重く、頑丈につくる。良い音のためなら物量を惜しまない、昭和のオーディオらしい発想です。
カートリッジはDENONDL-103R。その原型となったDL-103は1960年代に放送用として開発されたMC型で、MCとはMovingCoil、「コイルが動く方式」です。SHELTERMODEL1011というヘッドシェルで支えています。
DL-103Rがつくる電気は、わずか0・25mVほど。そこで昇圧トランスを通します。これもコイルと磁気を利用し、電源を使わず小さな信号の電圧をおよそ20倍にします。
溝の振動で針が揺れる。コイルが動き電気が生まれる。トランスで電圧を上げ、アンプで増幅し、スピーカーが空気を震わせる。こうしてたどってみると、アナログの場合は、中学生の理科で、音が出るまでを説明できてしまいます。
これら昭和の機械は令和の今も現役です。手間はかかりますが、レコード盤に針を下ろせば、ちゃんと音楽が始まります。技術が進歩すれば古いものは役目を終える、とは限らないようです。そもそも、そこに刻まれた音楽もまた、その時代のものです。
デジタルも最後は同じように音になりますが、途中で音の波を一定の間隔で測り、その時々の波の大きさを数字に置き換えて記録し、再生時に電気信号へ戻します。アナログは、溝そのものが音の振動の形を持ち、針がそれを直接たどります。音の道筋を想像しやすいのです。しかも、針圧やカートリッジを変えれば音も変わる。それぞれに物理的な理由がありながら、最後は自分の耳で確かめるしかありません。
レコード盤に針をそっと下ろす。昭和に溝に刻まれた振動は針を伝い、カートリッジという小さな発電機で電気になり、スピーカーで再び振動となって、令和の空気を震わせ、私たちの鼓膜を揺らします。
仕組みがわかるから面白い。触れば変わるから面白い。時代を越えて働くから面白い。アナログの魅力は、音楽だけでなく、音の道筋まで楽しめることなのかもしれません。(文・正木)

