《ゼニヤのキホン》 2024.12月号より
ハロウィンのカボチャと冬至のナンキン
クリスマスの起源はイエス・キリストの誕生を祝う日ですが、日本で定着したのは1950〜1960年代の経済成長期に商業イベントとして広まってからのようです。読者のほとんどは子供の頃にツリーを飾ってケーキを食べ、サンタクロースに手紙を書いてプレゼントを楽しみにしながら眠った記憶があると思います。では、ハロウィンはどうでしょうか?ハロウィンは1990〜2000年代にかけて子供向けの仮装イベントとして人気となり、日本のアニメのコスプレイベントとも融合しながら若者に広まったようです。「ハロウィンって何を食べたらいいの?」と聞かれたことがありますが、私もその人も子供の頃に経験していないのでよくわからずに笑い合いました。
ハロウィンの起源は古代ケルトの祭り「サウィン」で、現代のアイルランドやスコットランドを中心とするケルト文化圏では2000年以上の歴史があるようです。ケルト暦での年の変わり目で、霊的な節目としても考えられ「この世」と「死者の世界」の境界が薄くなり、死者の霊や超自然的な存在が地上に現れると信じられました。農作物や家畜を供え、豊作に感謝すると共に、悪霊を追い払うための儀式も行いました。ケルト人は動物の皮をかぶって仮装し、悪霊を怖がらせたり、仲間だと見せかけて身を守ったりしたそうです。8世紀になってキリスト教がケルト文化圏にも広まり「諸聖人の夕べ(AllHallow’sEve)」と混ざり合ってハロウィンの原形となったようです。19世紀にアイルランドやスコットランドからの移民によってアメリカに伝わり、元々はカブを使っていたジャック・オー・ランタン(カボチャをくり抜いてつくる灯籠)も、アメリカで入手しやすいカボチャが使われるようになり、現代のハロウィンではパンプキンパイやスープが食卓に上がります。日本でもカボチャのケーキやクッキーがその時季には販売されますね。
死者の霊がこの世に帰ってくるという意味ではお盆、あの世とこの世の境界が近づくという意味ではお彼岸と同じですが、日本のお盆は施餓鬼供養が行われることも多く、先祖だけでなく餓鬼道におちた魂を供養するために食物を供え、これらは食べずに川に流す(餓鬼に施す)習慣があります。大阪では相合橋から道頓堀川に流します。お彼岸は、春は牡丹餅(ぼたもち)、秋は御萩(おはぎ)を食べる習慣がありますが、小豆には邪気を払う意味があるようです。年の変わり目の邪気払いと言えば、節分にも似たような意味合いがあります。
日本にはもともと冬至(12月21日頃)にナンキン(カボチャ)を食べる習慣があります。冬至は昼の長さが一年でも最も短く、太陽の力が弱まる日ですが、陰極まって陽に転ずる日でもあり「再生」を象徴する縁起の良い日とされています。運気を取り入れるために「ん」のつく食物を摂ろうということで「ナンキン(カボチャ)」だけでなく「レンコン」「ギンナン」「キンカン」「ニンジン」等を食べる地域もあるようです。文化的、宗教的行事と季節の食材が結び付き、それらを合わせて楽しむ習慣は古今東西共通で素敵なことだと思います。(文・正木)