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《ゼニヤのキホン》 2024.9月号より

ナニナニの虫

錢屋本舗本館では色々なイベントを企画して実施していますが、好評でシリーズ化されるものも少なくありません。「錢屋本舗本館 本の虫クラブ」という本好きが好きな本を持ち寄って互いに紹介し合うイベントに参加してみました。私も本の虫です。

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ところで、古代の人は体の中に虫がいて何らかの作用を及ぼすと考えていたようです。自制できないくらい夢中になるのは人よりも体内の虫が勝るからなのでしょうか。日本語だけでなく英語やドイツ語、ロシア語、中国語、韓国語、アラビア語、オランダ語などでも本好きを「本の虫」と言うそうです。多言語にまたがる共通点に興味をもって調べてみたらフランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語では「図書館の鼠」と呼ばれるようです。ラテン語にまで遡ると由来がわかるのかも知れませんが、虫であれ鼠であれ、あまり良くは思われていない感じが共通していて面白いです。日本では文武両道とも言いますが、本ばかり読んでいるようでは駄目だという感覚が洋の東西を問わず言語の中に定着するほど本質的な価値観なのだと考えるとさらに興味が深まります。ゲーム(game)ばかりする人をゲーマー(gamer)と呼ぶようですがerは人を表す接尾語です。人扱いですが言葉としての魅力には欠けます。

第4回のテーマは「人生に影響を与えた本」でしたが7名の参加者の選んだ本と紹介コメントから、初対面であってもその方の人生の一部が想像できました。用意された紅茶を飲みながら気軽に話すのですが、自分の好きなものや大切なことを人に話すことは楽しく、楽しそうに話す人の話は聞いていて楽しいのです。連続の参加者もおられて、本好きという共通項はあっても好きなジャンルはそれぞれですから、本を通じて人となりが知れるコミュニティの今後も楽しみです。次回は8月24日でテーマは、この回に限って夏休みの課題図書風に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に限定して感想を述べあう趣向です。子供の頃に読んだ本を読み直して、今のそれぞれの解釈で語り合います。

夏休みと言えば、小学生くらいの子供がいる家庭では夏休みにセミやトンボを捕まえたり、カブトムシやクワガタを飼ったりすることがあります。これらは海外ではあまり一般的ではないようですが、日本では自由研究用にアリの巣の観察をするキットまであります。田舎では秋になると鈴虫やコオロギ、キリギリスが鳴き始めますが、これを聞き分け、風情を感じるのは日本人特有の感性ともいわれます。生活の中に虫にまつわる慣用句も多く、文化的背景の違いとはいえ日本人の虫と共生する感覚に豊かさを感じます。本の虫も海外のそれとは少し種類が違うかもしれません。(文・正木)