《ゼニヤのキホン》 2023.9月号より

出会いものを楽しむ

最近、会社で部活動をするようになりました。
屋上菜園で野菜を育てる「やさい部」や会社帰りに上本町界隈で会食をする「ごはん部」です。
ご近所(石ヶ辻町)の「旬菜とお酒まも梨」さんでのことですが、弊社の若い新入社員が「出会いもの」を知らなかったので、その話になりました。

旬を同じゅうする山のものと海のものの組み合わせを「出会いもの」と言い、旬でも出始めは「走り」、終わりかけを「名残」と言って、その変化も含め季節の味を楽しみます。
名残の鱧と走りの松茸が出会う時季に、ハモマツと言えば鱧の骨で取った出汁で仕立てた土瓶蒸しや小鍋などを指します。
他にもワカタケはわかめと筍を組み合わせた春の出会いものですが、季節ごとに鰊と茄子、烏賊と里芋、鰤と大根など、先人の試行錯誤の賜物は数多くあり、これらの取り合わせの妙はご家庭でも楽しまれているかと思います。
山のものは山にしか無く、海のものは海にしか無いわけですから、それを組み合わせるところに人の役割があり、より美味しく取り合わせることが人の技ということになります。

このように食事をしながらでも仕事について考えるヒントがあり、つい「仕事とは…」と言いそうになりますが、その時は(あくまでも部活なので)小うるさい話は控えました。

組み合わせでうみだす魅力

錢屋カフヱーやギャラリーの内装は、特にこれといったスタイルのない一見バラバラな組み合わせでバランスをとるコーディネートになっています。
新品も中古品も混ざっていて、どれかが入れ替わってもお気付きにならないかも知れません。
これは模様替えをしたい場合や、修理できないほど痛んだ場合に交換しても破綻せず、長期に渡って魅力を保つ工夫でもあります。
昨今は余程の名作家具でもない限りは、何年か経つと廃盤となり同じものが調達できないばかりか修理する部品もないということが多いからです。

実はこのヒントはアイドルグループから得ました。
昭和のアイドルはオーディションで「金の卵」を見つけ出し、大切に育て、引退したら伝説になるというパターンでしたが、最近のアイドルはユニット化し「推し」こそあれ、誰かが引退してもグループとして支持され続けることで長期使用(失礼!)に耐える仕組みになっています。

周りに既にあるものの価値や魅力に気付き、手を伸ばせば届くところにあるものを放っておかずに引き寄せ、組み合わせることで魅力をつくりだすことが私たちの仕事です。
錢屋本舗本館でのイベントにコラボレーションが多いのは、そのためです。
その取り合わせの妙を楽しんで頂けたらと思います。(文・正木)