錢屋本舗外観

《錢屋の110年》 2021.10月号より

変化の中で、変わらないために変える

今号で「錢屋の110年」は最終回です。
110年前にこの会社があったように、110年後もあり続けるために必要なことは何かと考えます。その答えは、新しいことに取り組み変わり続けることだと思っています。


諸行無常というように全ては変わっていくのですから、変わってしまうよりは、むしろ変えていこうという発想です。古びるのは仕方ないとしても、古さの良さを活かしながら改修した錢屋本舗本館はそれを体現したつもりです。


錢屋本舗本館の向かいに以前に小紙でもご紹介した「木村屋」という3代目が受け継いでいる古くから愛されている町のパン屋があります。私は幼稚園児の頃から50年以上、ここの「ホットドッグ」を食べ続けています。「変わらない味」なのですが、実際には変わっているはずです。当然ですが50年前とでは小麦粉も全く同じものはないでしょう。キャベツも品改良されているに違いないです。ホットドッグなのにウインナーではなくてハムがはさんである謎も面白いのですが、それはともかく…そのハムも昔は縁が赤く着色された薄いハムでした。つまり、当時と同じ材料は手に入らないはずなのです。また、私自身の味覚も年齢と共に変わっているはずです。それでも食べた時の印象は、あの頃と変わらないのです。どんな工夫があるのかはわかりませんが、時代と共に当然のように変わっていくものに左右されず(印象を)変えないためには、積極的な努力をされているのだと思います。

創業111年目…次のステージへ

前回、創業者から受け継いだものは食を通じ喜びを伝える精神だと書きましたが、これは食が人にとってお腹を満たす(生命を維持する)ための食糧というだけでなく、心をも満たすものだという意味でもあります。また、この意味合いは食にとどまらず、衣食住に渡って当てはまります。錢屋本舗本館の次のステージは、この生活全般に渡る暮らしの提案、人生を彩のあるもの、実りの多いものにして頂くための様々な提案をしていくことです。

豊かさとは何か?コロナ禍にあって生活や働き方を見直した方も多いと思います。振り返ればコロナ禍以前は、激流の様な大きくて速い流れに飲み込まれそうになりながら色々なものが過ぎていったような気がします。古い価値観に縛られ、そのおかしさに気付きながらも脱却できないでいたり、実態とズレた常識を見直すこともなく、思い込まされた思い込みに気が付かないまま従っていたりした気もします。

禍には違いませんが、世界中が立ち止まり、想いを共にしながら過ごしたこの期間を経て、今までよりこれからを少しでも良くするために、丁寧な提案をして参りたいと思います。