《錢屋の110年》 2021.9月号より
会社の承継について
創業110周年にあたって歴史を振り返りながら会社のことをご紹介しようと昨年の11月号から続けてきました。
今号と次号で締めくくります。私は4代目としてこの会社を承継したわけですが、創業時のように菓子の製造をしているわけではありません。創業からの流れとして商事部門で食品の業務卸や食品ギフトなどを商っていますが、この「月刊ZENIYA&LIFE」の読者は、カフェや錢屋塾の各種講座などのそれ以外の事業の方に馴染みがおありかも知れません。
言葉の意味として「承継」とは「前の代からのものとして精神、身分、仕事、事業を受け継ぐ」という意味で「前の代のものとして財産、権利といったものを受け継ぐ」という意味の継承とは違うそうです。
では受け継いだものとは…
手焼き煎餅が原点で、砂糖でアイシングされたビスケット(ヨーチビスケットと呼んだそうです)で成功をおさめた創業者から受け継いだものは食を通じ喜びを伝える精神だと思っています。父の代までの菓子卸業から食品を中心とした法人ギフト(企業のキャンペーンの景品など)向けに方向転換した際も、食品の手みやげはお腹を満たす食料品というよりも、お菓子がそうであるように心を満たす食であると考えたからです。
食べものを商うことについて
食べものは生活にとって欠くことのできないものですから、商う上で大切なことは正直であることだと思います。人が生きる上で必ず必要ですから、景気に左右されない良さもあります。でも、一方で儲け過ぎてもいけないという事でもあると思います。広告宣伝費が代金のかなりの割合で含まれるような大量生産品はあまり商いたくはありません。売り買いが対等でなくなるからです。食品の安売りも避けたいと思います。そこには必ず無理や誤魔化しが生じるからです。そもそも作り過ぎたことに原因があるのに廃棄処分的に安売りをするようなことは世の中全体でも見直すべき事でしょう。食べて明日も頑張ろうと思える食であるべきだと思います。大地の恵みや他の命をいただきながら、明日をより良く生きなければ申し訳ないと思います。
心を満たす食を
高いものが美味しい訳ではないと思います。良い店が多数決で決まるはずもないと思います。それなのにお金で置き換える価値観に左右され、他人軸の情報があふれています。
錢屋本舗本館からはカロリーや栄養素に置き換えられない食の豊かさ、体が欲するものを美味しいと感じる感覚を取り戻すような提案をしていきたいと思います。