恩回しのすすめ

「恩返し」は美徳とされ、感謝の気持ちを形にする行為ですが、その善意は当事者間だけで完結してしまいがちです。英語に「ペイフォワード(Payitforward)」という言葉があります。直訳すると「前へと払う」となりますが、これは受けた親切を別の誰かに手渡しながら、感謝の気持ちを未来へとつないでいく考え方です。この考え方は映画『ペイ・フォワード』でも描かれ、多くの人の共感を集めました。仏教の「回向」は、自分の善行の功徳を他者に対して差し向ける行為であり、広く他人や亡き人にその功徳を手渡すというものです。それぞれ異なる背景や価値観を持ちながらも、「自分の行為が他者のためになる」という考えには共通点があります。どちらも見返りを求めず、善意が静かに広がっていく姿勢が魅力です。時に自分を越え、時に誰かに返し、また別の誰かへと手渡していく。誰かのためにしたことが、さらに別の誰かをも支えていく。そんな循環の中に、真のやさしさや豊かさがあるのではないでしょうか。それぞれの文化が育んだ「善意のかたち」を知ることも、人との関係をより広く豊かにしてくれる手がかりとなりそうです。(文・正木)