大切にされてきたから良い、もの。
錢屋本舗本館は2015年に大規模な改修を実施。
築50余年の古さが持つ味わいを活かし、そこに新しい要素をプラスして本館は生まれ変わりました。
「良いものを大切にしよう」とはよく言われます。
では「良いものって何だろう?」と考えてみます。
つい「値段にして幾らくらいか?」という尺度になりがちですが、売らない限りは意味はなく身も蓋もない話になってしまいます。
錢屋本舗本館には骨董的価値のあるものは、ありません。
ですが「大切にされてきたから良い味わいで応えてくれるもの」はたくさんあります。
時代ごとの改修工事の痕跡が残るエントランスの研ぎ出しの床。年輪、あるいは地層のごとく建物の歴史を物語ります。
今回の改修工事(写真右下部分)でも、各時代の職人へのオマージュとして現代の職人も手間のかかる仕事で応えてくれました。
今は役目を終えた、シャッターを開閉するモーター。
手摺は一度ペンキで別の色に塗られましたが、剥がして当時の色に戻しました。
3つ残っている金庫のうち最も古いもの。
3階を倉庫として使っていたころの貨物用エレベーター。見た目は昔のままですが駆動系と制御系もリニューアルし現役で使えます。
この扉の奥には今はもう使われていませんが、実は井戸があります。戦前からこの場所には住居があり、このビルの竣工当時は、その井戸を活かして使っていたと思われます。
扉の模様は何だと思われますか?見ようによっては現代アートみたいでカッコイイでしょう⁈
左2/3のブルーグレーが竣工当時の色です。その前にある時期から大型冷蔵庫を設置していました。その後に壁を(レンガタイルが張られる前)薄いグレーに塗ったのだと思われます。その際に大型冷蔵庫の隙間から手が届くところまでペンキ屋さんが塗ってくれたのでしょう。その結果が、この不思議な配色となりました。これも、この建物の歴史を物語るものとして残しました。
昭和40年代の金庫。重すぎて移動できず…これを据えてから周りの設計を考えました。
上に置いてある真空管アンプは1960年代のALTEC社製。
原型はカーネギーホール用に開発されたもので、それの改良型普及版1570typeB。
ギャラリーのメゾネットにあるテーブルの天板は、改修前の応接室あった暖炉の天板を再利用。
左側が竣工当時の棚をそのまま。右は当時のガラスだけを再利用して新たに作った棚です。
真鍮製の取っ手にご注目ください。同じメーカーが同じ品番で今でも製造を続けておられます。
社長室のドアノブは…実はかつてのトイレのドアノブを転用しました。
50余年、たくさんの人に握られて磨かなくても光っている真鍮製です。