錢屋本舗本館

Web版 月刊ZENIYA&LIFE 2020年12月号

Web版 月刊ZENIYA&LIFE 2020.12 Vol.06

Do small things in the great way

-最高の普通を-

Principle

ちょっとしたことを、ちゃんとやる
“与えられるものこそ、与えられたもの”

 両親から事あるごとに「あなたは生かされて生きている。」と説かれ、幼少期を過ごしてきました。当時は分からなかった意味も、今では身に染みて感じる事が本当に多くあります。衣食住すべて、自分ひとりの力では何一つできません。

 錢屋カフヱーや錢屋本舗に足を運んで下さるお客様を、どのように迎えたら喜んでいただけるだろう。食事やスイーツ、コーヒーを美味しく召し上がってもらえる為には何が出来るだろう「ちょっとしたこと」が「ちゃんとできて」いるのだろうか。関わって下さっている沢山の方の顔を思い浮かべながら、日々業務に励んでいます。

〝与えられるものこそ、与えられたもの〟。私の大好きな歌にあるワンフレーズです。生かしてくれている人やモノに私が返せるものは何か。答え探しが終わることは無いかも知れません。

錢屋カフヱー 後藤美紗

 様々な人の想いやメッセージをリレーで繋いでいます。次回は、錢屋本舗 西村延泰にバトンを。

Topics

中塚さんが淹れる、金曜日の特別なコーヒー


 サイフォン式コーヒーを淹れ続けて40数年。肥後橋の『グランタス』元店主 中塚さん。懐かしさを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。いまは毎週金曜日の12時~16時くらいまで錢屋カフヱーにてサイフォン式コーヒーを淹れてくれています。

 淹れる技術はもちろん、観察力も抜群な中塚さんは、「髪切った?」「なんだか表情が変わったね」などと声をかけてくれることもしばしば。なかなかいまはこんなことを言ってくれる人も少なくなりました。思わず笑顔に。
 あぁ、こうやってグランタス時代もお客様と日々会話を楽しみ、コーヒーを淹れる間のひとときを過ごしていたのだろう。と想像します。

 カフェでは『お好みのコーヒーを飲んでほしい!』という熱い想いから、お客様と話し込んでしまうこともありますが、溢れ出す情熱ゆえです。時には「酸味が苦手です……」という方へ「ホンモノの酸味を」と提案する中塚さん。抱いていた酸味と異なるモノに驚きと心躍る体験をされるお客様もいらっしゃいます。

 アイスコーヒーは〝ストローを使わずにお茶のように飲んでほしい〟これは中塚さんからのリクエスト。ただ、香りの広がりを感じるこの飲み方は、ごくごくっと飲める中塚さんの淹れるアイスコーヒーには適しています。(もちろんストローで飲んでいただいてもOKです)

 金曜日、中塚さんと出会った時には、ぜひ今の気分や、味わいの好みを伝えてみてくださいちょっとワクワクした体験ができるかもしれません。

中塚さんサイフォンコーヒーDAY

毎週金曜日
12:00〜16:00ごろまで
※急遽変更となる場合もございます。

コーヒーカップに想いをのせて

 錢屋カフヱーで使用している白いコーヒーカップはヨーロッパのカフェで業務用として使われているものです。たかがコーヒーカップ。

 されどコーヒーカップ。カップ一つで気分が変わります。

 錢屋本舗の創業110周年を記念して作った【110バン】の販売開始に合わせて素敵なカップをご用意いたしました。

どのカップを使うかはお客様を拝見し、雰囲気に合わせて選んでおります。コーヒーをお持ちした時のお客様の笑顔が嬉しい毎日であります。

 ぜひ一度【110バン】をお試しください。コーヒーカップに想いをのせて美味しいコーヒーをお淹れさせていただきます。



錢屋カフヱーのプレスサービス

 フレンチプレスでコーヒーを飲まれたことはありますか?

 錢屋カフヱーでは毎日ハンドドリップで一杯一杯心を込めて入れておりますが、この度プレスサービスがメニューの一つに加わりました。

 フレンチプレスはコーヒー豆の味わいがダイレクトに感じられるので、コーヒーそのものの味わいや特徴にこだわって豆選びをするのも楽しみのひとつになると思います。

 錢屋カフヱーでフレンチプレスコーヒーを飲まれる時、どのコーヒー豆にしようか迷われたときはお声がけくださいませ。

 お客様のお好みなどお聞きして一緒に考えさせていただきます。

 フレンチプレスで新たなコーヒーの世界を発見しましょう!

錢屋ライブ
竹弦囃子 ギター×篠笛

配信ライブ 2020.10.25

「大阪にいて、全国の方と繋がれるね!」
 ライブのトーク中にギター愛川さんより出たお言葉。10月、無観客ライブを配信型にてお届けしました。

 いつもの空間にお客様がいらっしゃらないのは正直寂しいのですが、全国からリアルタイムで寄せられる皆様のコメントを読んで、月並みな表現ですが〝離れていても心はひとつ〟と感じました。お客様と交わすコミュニケーションが、オフラインの場とは異なるイノベーションが起きているようでした。

「ギターと篠笛」。「和」と「洋」の織り成す透き通った音色、届きましたでしょうか?これからも〝日常に音楽を〟お届けしたいと思います。


竹弦囃子 Chikugenbayashi
ギタリスト愛川聡と篠笛奏者の山田路子を中心に「現代の和」をテーマに活動しているユニット。
「和」をモチーフにしたオリジナル曲と共に、現代のポピュラー音楽的なアレンジを加えた日本の童謡や民謡を中心に国内外の様々な地域でのライブ活動・イベント出演・ホールコンサート等を行っている。

「配信ライブ」というコンテンツで繋がっていく

愛川 聡 Satoshi Aikawa

 コロナ以降、配信ライブというコンテンツが急激に増えて来ましたが、演者・観客・主催者それぞれの立場で様々な捉え方があると思います。僕自身は早くから自宅配信などに取り組んで来ましたが、遠方のお客様や普段から応援いただいている方がご覧になっていただけたのは非常に嬉しかったです。

 よく、配信と生ライブを比較してしまう方がいらっしゃいますが、配信って野球中継とかと同じく、球場で観戦するのとは似て非なる別のコンテンツだと思います。それぞれの楽しみ方がありますし、配信の需要は無くならないと思うので、今後も続けて行きたいと思います。

心地よく響く笛の音

山田 路子 Michiko Yamada

 初めて訪れた錢屋ギャラリーさんは、そこに置かれている一つひとつの家具やインテリアがとてもお洒落で温もりがあって心落ち着く居心地の良い空間でした。照明器具やタイル、テーブルや椅子など、どれも可愛くて終始店内をキョロキョロしておりました。

 笛の音も心地よく響き、お陰さまで多くの皆様に竹弦囃子の配信ライブをお届けすることが出来ました。いつか有観客ライブもさせて頂けたら素敵だろうな、と思いますし、お客としても、ふらっとのんびり立ち寄りたいです。本当にどうもありがとうございました。

冬のホットカクテル

アイリッシュコーヒー[前編]


 12月にもなり、今年も終りが近づいてきました。冬の冷え込む夜に、そして錢屋カフヱーにもぴったりなカクテルがあります。そう、『アイリッシュコーヒー』です。

 アイリッシュコーヒーが生まれたのは、1942年アイルランド共和国のフォインズ水上飛行場です。当時の大西洋間航路はまだ飛行艇であり、航続距離が短いために途中給油しなければなりませんでした。そのヨーロッパ側の経由地が、シャノン川中洲にあるフォインズ飛行場でした。

 現在の旅客機とは違い、プロペラ飛行艇は気密性が低く、暖房はほとんど効かなかったとかしかも給油の度に、水上ボートで川を移動し待合室に行くのです。冬なら皆凍えていたでしょう。

 待合室にあるパブのシェフ、ジョセフ・シェリダンは、乗客のそんな様子を見てアイリッシュコーヒーを考案しました。熱いコーヒーにアイリッシュウイスキーを入れ、その上に生クリームを浮かべる……。ウイスキーと酪農の国アイルランド、その空港で出すにふさわしいカクテルです。欧米間を行き来する旅客たちは、寒さの中温まったカクテルの思い出を語り、そして世界に広く知られるホットカクテルになっていきました。

 錢屋カフヱーでは、自家焙煎のコーヒー豆をドリップし、錢屋のコーヒーと相性の良いウイスキーと合わせて丁寧に作っています。来月号では、カクテルメイキングの様子をお見せいたします。

アイリッシュコーヒー1500円

俳句で四季を
楽しもう

錢屋塾 原和人先生の俳句教室

 俳句は、仲間と一緒に楽しめまた向上しあえる素敵な文芸です。俳句を始めると、今まで身近にあった「もの」や「こと」が、突然輝きを帯びてきます。

 秋の季語である「紅葉」を例にとって説明します。その年初めて見つけた紅葉を「初紅葉」、うっすらと色づきはじめたものを「薄紅葉」盛りのときに、一方で紅葉が散っている「紅葉かつ散る」、冬まで咲いている「冬紅葉」、地面や屋根に散り敷いた「散紅葉」。
 日本の四季を一緒に楽しめる俳句講座にしたいと思います。


51回錢屋句会
2020.11.14

 兼題 ・毛糸・七五三・神無月
生徒作品 上田 久之

岩田帯返す参道冬ぬくし

原先生の評

 岩田帯は、妊娠した女性の胎児保護のために腹に巻く白布。新しい白布を安産のお礼に返しに行く景。子供を無事に授かった喜びに冬の参道が暖かく感じられました。

生徒作品 林 憲子

七五三着物祖母母孫百代

原先生の評

 七五三の子供の着物は三代同じものを身に着けています。百代(ももよ)の措辞にて、その着物を、孫にもまたその子にも着てもらいたいのです。孫の女の子に対する愛情にあふれた一句です。

生徒作品 甲佐 京子

縁をたぐり寄せるごと毛糸編む

原先生の評

 この縁(えにし)は怖いような楽しいような毛糸(玉)を手繰り寄せる動きと縁をそうする動きが響きあっていますね。恋人への思いが籠った一句と受け取りました。


生徒作品 金子 明嗣

鮟鱇を吊るし切ったる祖父の背

原先生の評

 鮟鱇の吊るし切りを手際よく捌く祖父の姿を描きました。まだまだ元気で、背(せな)にかいた汗まで感じさせてくれます。祖父を尊敬し良い関係にある事が見えてくる一句です。

先生の作品 原 和人

夜焚火や首落とさねば死なぬ鬼

鑑賞

 夜焚火という季語はおどろおどろしさも感じます。この鬼は、「鬼滅の刃」のあの鬼をイメージしています。少し遊んでみましたが、時事の句も楽しいですね。

句会の楽しみ 原和人

 句会は、俳句仲間(連衆とも)が集まって俳句を楽しむ遊びの会です。
進め方は

  1. 自分が提出する句を一句ずつ短冊に書いて提出する
  2. その短冊の句を集めて担当者が清書する(清記)
  3. 清記した句の一覧を見て、良いと思った句を選ぶ(選句)
  4. 選句した句を読みあげてどの句を誰が選んだかを明らかにしていく(披講)
  5. 自分が選んだ句の良い所を説明する(講評)
  6. 選ばれた人が自分の句であることを明らかにする(名乗り)

というような順で進めていきます。
 自分の句が選ばれた嬉しさ、選ばれなかった事がまた俳句の上達につながるのです。最高得点句や特選句(最も優れた句)をものにすると、その日はとても気持ち良く過ごせます。


花と暮らしを慈しむ”hanakurasu”


 mika先生の世界観。ここに憧れと夢を抱いて、レッスンに来て下さる生徒さんを多く拝見します。

そう、”フラワーアレンジメントを習いに来ている”だけでなく”mika先生に会いに来ている”のです。

 その時間はとても豊かで、日々早く過ぎ去っていく時間を”ゆっくり、ゆっくり……”と、魔法をかけられている、そんな気持ちにさせてくれます。mika先生のレッスンにはお手本(正解)はありません。

 これは一見”難しい”と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、”これかわいいよね”というその時の気持ちを大切に、花と触れてほしいのです。もちろん質問には答えます。ただ、ベースにあるのは感性に目を向けること。ぜひこの世界観に触れてほしいです。

Teacher’s voice

hanakurasuを受けて
皆様に体験していただきたいこと、感じてほしいこと

 少しだけ日常から離れ、植物に触れ合う時間を持つことで、日々の小さなストレスでザワついていた心の波が、いつの間にか穏やかになり静かに落ち着いている。それは私が植物に携わる中で実際に感じてきたことです。

 hanakurasuでは、何か決まった形を教えるというよりもまず花に触れて頂き、花の息吹を感じ、皆さんそれぞれが〝美しい〟と思う角度を探すお手伝いをしています。何を〝美しい〟と感じるかは人それぞれ。百人いれば百種類の〝美しい〟があるわけで、それは誰かと同じでなくても良いのです。

 まずはそのことに気づき、自然な花の姿に心を委ねる。その繰り返しで、自分だけにしか見つけられない〝好き〟や〝美しさ〟がきっと見つかるはずです。集中して過ごす時間の中で、植物から降り注ぐエネルギーを享受して頂けると幸いです。



講師:mika
花が暮らしの中にある豊かな日常を、フラワーアレンジ、アロマ、ハーブ、スイーツなど、手仕事で出来うる全般から提案。
長年の経験から、カフェスイーツのレシピ開発、企業の撮影スタイリングなども手掛ける。

Student’s voice

自分らしく自由に

 mika先生のレッスンは、自分らしく楽しめるレッスン。基本的なポイントのレクチャーはあるものの、どんな形に仕上げるかは自由。勿論、わからないことは何でも質問することができるので、アレンジメント経験の無かった私でも気軽に取り組む事ができました。毎回のレッスンが楽しみになるたっぷりの花材も魅力。生命力溢れる草花に触れながら季節を感じるこの時間は、自然と暮らしにエネルギーと癒しを与えてくれます。
受講者 布川 まどか様

心が解けて軽くなる

 mika先生のレッスンは、素敵な花に出会えることは勿論なのですが、先生とお会いすることが目的になっていたりもします。フレッシュな生花の香りに包まれ、やさしい色合いの花材に触れて、先生と他愛もない話をしていると、何だか張り詰めていた心がふっと解けて軽くなるのです。帰り道には、「また明日から頑張ろうかな!」と思える、先生は私にとってパワースポットのような存在です。
受講者 岡 聡美様

井藤 昌志 オーバルボックス展

イベントアーカイブ 2020.10.10 – 10.18

井藤 昌志
木工作家。1966年生まれ。2003年、郡上八幡に工房を設立。2009年、長野県松本市へ工房移転。
昭和8年建築の元薬局を改装したカフェ&ギャラリーと、木製品を扱うthe BOX SHOPからなる「LABORATORIO」をオープン。
オーバルボックスをはじめ、テーブルウェア、家具に至るまで幅広く制作を行う。

 優美な曲線、スワロウテイルの美しさ。

 無駄な装飾のない極めてシンプルなつくりだからこそ際立つ丁寧な仕事に、初めて出会った時から心奪われました。

 作家の井藤さんは穏やかなお人柄で、オファーした際に「ぜひやりましょう」と快諾くださり、展示販売会を行うこととなりました。会期中、お客様は思い思いのエピソードや愛用方法を話してくださいました。用途は様々。文房具入れ、お裁縫道具入れ、靴磨き道具入・・・などなど。帰宅した後に思い返し、何度も足を運んでくださった方も。

 ひとつずつゆっくりと集めることも、味わいが変化することも喜びとともにたのしむ・・・。

 井藤さんのオーバルボックスを通して、多くの方と出会うことができました。また次回、多くの物語を運んでくれることを願って。


【錢屋塾|匠に学ぶ】

マッキー牧元が秘密をさぐる

とんかつマンジェ・オンライン配信レポート
2020.10.19

坂本 邦雄(右)
とんかつマンジェ オーナーシェフ
マッキー牧元(左)
株式会社味の手帖 取締役編集顧問、タベアルキスト、料理評論、料理紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演多数。
『東京最高のレストラン』『超一流のサッポロ一番の作り方』他著書多数。

 錢屋塾料理教室では初となるオンライン配信を開催いたしました。
 MCには「味の手帖」編集顧問のマッキー牧元氏をお迎えし、シェフから料理を教えていただきながらその人気の秘密をグイグイ探るという趣向です。今回は八尾市にある『とんかつマンジェ』のオーナーシェフ、坂本邦雄氏にご登場いただきました。

 メニューはとんかつマンジェの裏メニューでありながらファン必食の『ポークジンジャー』、そして門外不出のジンジャーソースのレシピも特別に公開していただきました。

 お二人が調理したポークジンジャーの食べ比べや、「オンザライス」の極意を紹介してくださったくだりは一番の盛り上がりを見せ、コメントも多く寄せられました。

 初めての料理教室に錢屋塾を選んでくださった坂本シェフ、日本中、世界中を食べ歩く『タベアルキスト』牧元氏による二人の匠がコラボ。食を知り尽くし、今なお探求し続けるお二人の息の合った掛け合いに、参加者の方々からもたくさんのコメントや質問をいただく活気ある時間となりました。


錢屋の110年

創業時の苦労と得た教訓

 前号では創業者 正木繫吉が、創業から1年間は元日以外は休みなく働き続け、軌道に乗るかと思いきや後にミナミの大火と呼ばれる大火災の類焼で店を失い、更に明治天皇の崩御とその後の不景気で移転を繰り返し、江戸堀に落ち着くところまでを書きました。

 実は開業の前から繫吉は大変な苦労を重ねたようです。生家の正木家から13歳で大井家に養子に入ります。大井家は神戸の商家であり資産家であったようですが日露戦争で繫吉が3年間の兵役を経て23歳で戻った際には戦時好況の反動で金融が行き詰まり、その処理に奔走しますが遂に破産の憂き目に遭います無一文から26歳で煎餅職人として再起を図ります。生家は明石群垂水村の代々村長、寺社総代を務める地主、養子に入った家も資産家ですから言わばぼんぼん育ち、養家の没落がきっかけとはいえ26歳で職人の世界に入るのはさぞかし辛かったろうと思います。

①帆は八分目に張って常に余力を蓄える事
②名誉に憧れて濫りに人の長とならざる事
③無理な負債は絶対にせぬ事
 これらが教訓として残っています。

 話が逸れますが、企業理念や経営理念という言葉を使われるようになって久しいですが、弊社には創業者の言葉として残っているものは先の3つの教訓しかありません。ただ、エピソードの多い人で伝えられている言動や足跡などから、現在にまで息づく思いを汲み取ることはできます。お付き合いいただけるならばこのコーナーでは社の歴史を振り返ると共に創業者の人物像をご紹介していきたいと思います。


ひたすら働いた創業期、
やはり働き続ける発展期

 大井家の復興を胸にひたすら働いたようです。夕食までに1日分の仕事をし、夕食後に半日分のいわば残業をし、それを1年間続けたようです。職人は宵越しの金は持たない流儀で日当を前借してまで遊ぶのが当たり前の時代だったようですが、繫吉は大井家復興の一念で一切の無駄遣いをせずに貯金し、それが錢屋本舗の創業資金となったようです。

 前置きが長くなりましたが、ここからが前号の続きです。江戸堀に移転してからは、焼菓子工場をつくりビスケット等を量産すると共に問屋を開業し、有力メーカーの特約を取り付け、自ら営業開拓し2年後には販売網を近畿から中国四国、九州、朝鮮にまで広げたようです。同業者と協業しながら事業拡大すると共に現在の業界組合の基礎となるものをつくったようです。

 大正8年にヨーチビスケットの製造を開始します。ヨーチとは幼稚園のことですが、どうも子供向けのお菓子というような意味で砂糖掛けビスケットそのものの呼称だったのではないかと思われます。今でも駄菓子屋などでは動物の形をした砂糖掛けのビスケットを動物ヨーチと言って売られていたりします。当時の錢屋本舗の広告には「リーフ幼稚園」「交通幼稚園」の表記がありますが、葉っぱ型や乗り物型などがあったのかも知れません。

 それまで東京から仕入れるしかなかった幼稚園ビスケットの製造を始めると、たちまちにその品質が評判となって「東京品を駆逐し時代の寵児となった」と当時の業界誌が伝えます。

錢屋塾おおさか講座

大阪再発見&再始動 特別連続講座[全7回]

第1回 コロナ禍後社会を考える基本的視座(総論)
2020.7.28

コロナ禍の今、私たちにできるのはアフターコロナを真剣に考えることかもしれません。
「錢屋塾 おおさか講座」では特別講座[全7回]を実施し、そのあり方を皆さんと一緒に考えます。

講師:大阪ガス株式会社
エネルギー・文化研究所顧問
池永寛明

対症療法に
頼ってきた日本

 第1回目のテーマは現在に至る日本社会を顧みながらコロナ禍後を考える「基本的視座(総論)」。アベノマスクと揶揄された国の対策、オンラインによる特別定額給付金申請の混乱は今も多くの人々の記憶に新しいところです。ただ、これらはコロナ禍で表面化されたものの、池永先生は「以前から予兆はあった」といいます。「目の前にある問題(trouble)への対症療法ばかりを行ってきた日本は、その原因である課題(problem)に向き合う根治療法が苦手。物事の本質をつかめないから『マスクが足りない=みんなに配ろう』という発想になるのです」。
 大阪人は「なんでやねん!」というツッコミをよく口にしますが、語末を「なんでやねん?」にすると疑問形に変わります。池永先生は「日本人全体として疑問を持つ意識が薄れている」と感じ、それも根治療法に向き合えない一因と自戒します。

「禍」は元に戻らないという意味


 「禍」と「災」。どちらも「わざわい」を指す漢字ですが、意味はそれぞれで異なります。「災」には元に戻せる、「禍」には元に戻らないという意味があり、今後社会が大きくリセットされることを見越してマスコミや識者が「コロナ禍」の表現を用いているのなら、この言葉のチョイスはあながち間違っていないといえるでしょう。
 そうした先見の明でいえば、時の内閣で経済企画庁長官を務めた大阪玉造生まれの作家・堺屋太一さんが残したメモは非常に興味深いもの。経営者の友人と雑談した際、1990年以降の時代の動きをその場でグラフに描き示しました(画像参照)池永先生はそこに過去の日経平均株価の数字を重ね、堺屋さんは90年以降に訪れる『失われた30年』を予見していたのだろうと解説しました。

コロナを機に
「モノ」から「人」へ

 日本は何を読み違えて「失われた30年」に陥ったのでしょう? 「モノありき」の文化が日本に根強くあることもその要因の1つだと池永先生は指摘します。世界に大きく後れをとったスマートフォン開発は顕著な例。より小さく、軽く、薄いガラケーを生み出す優れた技術はあっても次世代のライフスタイルにまで目を向けられなかった現実がそこにはあります。
 さらに未来社会を牽引するといわれるIT・AIの活用においても、「人ありきではなく、過去を省みず『IT・AIで何ができるのか』という技術ありきで構想を描いている」と警鐘を鳴らします。モノから人へ、今はまさに発想を転換する時――。社会のあり方をリセットするといわれるコロナ禍は、旧態依然とした日本を新しく変えるチャンスなのだと今回の講演で再認識することができました。

受講者の声

日本はハード(モノ・技術)とソフト(人)とが混在してしまっていると今回の池永先生の講演で気づかされました。

「失われた30年」から続く今のコロナ禍は戦後最大の危機かもしれない。しかし、その認識が日本全体に行きわたっていない気がします。

2021年2/6(土)14:00〜
第7回 錢屋塾おおさか講座 大大阪と環状線
-JR大阪環状線に注目すると見えてくる近代大阪の姿-

講師:船越 幹央氏 (大阪歴史博物館 学芸員)
会場:うえほんまち錢屋ホール(錢屋本舗南館6階)